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うそつき

書きたいとこ書いただけ




「そっか」

三文字。たった三文字にどんな意味があるかなんてわかるわけ無いんだ。ましてや、僕はあくまで傍観者の立場で、当事者である兄の気持ちなんてわかるはずがなかった。分かりたくもなかった。僕は兄の、幸せという言葉だけを信じてきた。それを兄が自ら壊すなど、有り得てはいけないのだ。だって兄は嘘などつかないと、自ら自分に言い聞かせてきたのだから。


「そっか」


もう一度兄は先ほどと同じ三文字を呟くと僕など元から存在していないかのようにどこに視線を合わせるわけでもなくその場を後にした。その日のうちに兄さんは首を吊り、僕の目の前にはだらりと下を向いた肢体だけが残った。その顔は微笑みに満ちていて。ほら、やはり兄さんは幸せだったんじゃないか!!僕も兄さんのとなりで首を吊って死んだ。

王子気取りの臆病者


「つまんない」
「ねえ、えみる、つまんない」


お姫様は僕の背中を軽く蹴って何かを知らせてくる。蹴られると、痛い。とても痛い。なので、やめてほしい。けれど僕は何も言えない。このまま後ろを振り向けばルカはきっと嬉しそうにはにかんでしまう。そしてそのはにかんだルカに向かって何かを言えば、必ずその顔を歪めて今にも泣きだしそうな顔をしてしまう。ルカの泣き顔は好きじゃない。僕はなにも言えないし、言わないし、言っちゃいけないのだ。


「エミル、つまんないよ」
「うん」


彼はまた泣きだしそうな声をした。どうすればいいのか、きっと分からないんだ。慣れてないから。僕は諦めて彼に向き直って、一言彼の名前を呼んだ。ルカ。僕の予想は半分当たって、そして半分はずれた。彼は泣き出してしまった。はにかみながら、泣き出してしまった。


「ごめん、ごめんなさいエミル」
「うん、」
「僕、頑張る……頑張るからあ…………嫌わないで、嫌わないでぇ……」
「うん、うん……頑張って、頑張って慣れていこうね、ルカ」
「………嫌わないでぇ…嫌わないでぇ………」





ああ、なんて






彼は泣き虫だった。泣き虫の臆病者だった。そして彼には友達がいなかった。僕以外。いや、僕すら友達ではなかった。だから彼は僕に好かれようと必死だった。友達として。問題なのは僕は彼が好きだったことだった。恋愛として。彼は僕に好かれようと必死で、僕は彼に愛されようと必死だったのだ。僕は彼のことが好きだった。でも彼より臆病者の僕は彼に嫌われたくなくて、でも彼の友達にはなりたくなくて、でも彼に僕を好きでいて欲しかった。だから僕は彼に伝えたのだ。少しのホントと、ほとんどの嘘を混ぜこんで。



「ルカ、僕はルカとは友達になれないよ」
「なんで、?僕が臆病者だから……ねぇ。僕、ぼく、どうすればエミルと友達になれる、なれるの?」
「僕は泣き虫な弱虫とは友達になんてなりたくないよ」
「そんな」
「だから、ね」





僕のお姫様になって






王子気取りの臆病者





ーーーー
我が儘お姫様(なふり)ルカぴょんと言いなりエミルん(M)

ラムベルさん早死に説




「お前の過去は弟に、お前の今は幼なじみに、なら、お前のこれからは俺にくれたっていいよな」


胃の中から嫌なものが込み上げてくる。それは彼に首をしめられているからなのか。それとももっと別のなにかなのか。俺には分からない。彼は勘違いをしている。彼の黒い瞳には、何も写っていない。目の前にいる俺さえも。彼は勘違いをしている 。そして、俺も勘違いであってほしかった。




「俺の未来なんて、元々ありませんよ?」

かくれんぼ


ショタベル





階段を1段、また1段と降りていく。1つずつしか下がっていないはずの階段がとてつもなく永く感じた。降りる度に煩くなる、心臓。握っていた両手が震え出す。怖い。怖い。もうすぐ一番真下についてしまう。音を立てないように息を殺して。一歩一歩歩みを進める。後少し。あとちょっと、あと……数秒。一階にたどり着いた俺は手摺を離してそっと領主室の前に耳をそばだてる。……違う。ここじゃない。もう外に出てしまおうか。玄関先まで何とかたどり着きドアに手を掛ける一瞬前、領主室の反対、客室から物音が聞こえた。鈍い音。俺はそっと客室の扉の前にたちドアを見た。誰もいない。誰もいないはずだ。誰もいないはずなのに。そっとドアを中が見渡せるほど小さく開く。怖がるな。何もいるわけ、ないのだから。





確かにそこには誰もいなかった。扉を少し開くと目に飛び込んできたもの。モノ。あれ、あれ?どうして。確かにそこには誰もいなかった。でも。どうして。なぁ、どうして。







どうしてものになり果てているんだ。












目の前が何故か赤いのだ。いつもは青い色彩を放つ弟も、今日はいつもとは違う服を着て横たわっていた。そして母親も、父親も、その横でお揃いの服を着て眠っていて。なんだよ皆して。俺だけ、仲間はずれ。母さんがまたヒューバートにだけ編んでやったのだろう。弟の特権だ。俺にもお揃いの編んでくれよかあさん。俺を、置いていかないで。


哀色


現パロ




「遠くに行ってみたいな」



電車の中でアスベルは目を伏せながらそう言った。いつかあの広いけれど自由のない窮屈な家を出て、世界を自分の目で見ることこそがアスベルの小さな時からの夢だった。彼は決してその夢を口にしたことはなかったが、いつも空を眺め、遠い彼方
を見つめるその横顔を見れば彼を知る人間ならば一目瞭然だった。彼は強くなくてはいけなかった。家の跡取りとして、強く生きなくてはいけなかった。俺はそんな彼が哀れで仕方がなかった。レールがしかれた人生なんて、つまらない。彼には元より選択肢など存在しなかった。自分の人生を、自分で歩むことすら許されない。そんなのおかしいだろ。自分の人生を他人に決められるなんて。おれなら死んでもごめんだ。



「そうだな、このままどっかいっちまうか」
「ふふ、ユーリさんとならどこにでも行けそうですね」
「茶化してんのか?」
「とんでもない、本音ですよ」
「俺は本気だ」
「ユーリさんは優しいんですね」
「今さら知ったのか?」
「はい、いつもはもっと意地悪です」
「お前な………」



ごめんなさいと彼は笑う。ころころとすぐに変わっていた表情が、張りついてきたと感じるようになったのはいつからだろうか。俺にだけは見せる涙すら見せなくなってしまった。彼は、泣かなくなった。



「バカなことを言ってしまいましたね、今の言葉は忘れてください」
「行きたいんだろ、本当は」
「そうですね、でも俺はこれで良いんです」


もう一度アスベルはごめんなさいと謝ると電車の窓をのぞきこんだ。通いなれた道。彼にとっては唯一外にいられるこの時間はとても貴重だった。外を覗きこんでも緑もなにもあったもんじゃない。目にはいるのはやけに自己主張をしてくるビルばかりだ。それでもアスベルは楽しそうだった。毎日見ているというのに。



「お前が望めば俺はお前をあの家から連れ出す、何があってもだ」
「ユーリさん、」
「あくまでお前がそう望めば、だけどな、」
「………ユーリさんはやっぱり優しいですね」


こてん、とアスベルの頭が俺の肩に落ちる。穏やかな声。全てが他人事とでもいうような、そんな声色だった。やはり彼は。



「今こうしてユーリさんと過ごせる今があるだけで俺は充分です」
「………馬鹿だな、お前は」




笑うことすらもううまくいかないくせに




そのまま俺の肩で眠ってしまった少年の額にひとつ優しくキスをして、俺もゆっくりと目を閉じた。






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